2018年度設計系授業参考作品

*1年次設計演習授業

建築デザイン演習1(春・水3−4・1セメスター)

◎小沢朝江・加藤仁美・十亀昭人・野口直人・番場俊宏・藤田大海・金子哲也・森昌樹・平本玲・稲益祐太

「小空間の設計」

■目的
 身体に近い寸法を持つ単純な形態を複数回操作し、出来上がる形態や内部、外部空間の多様性を皆で共有することを第一の目的とする。また、各自が行った操作について、言葉で説明ができることを第二の目的とする。

 

■設計の内容
1・外形寸法1800×1800×18000のチューブ状の形態に、何らかの操作を複数回加え、

  その内部/外部ともに使用できるものを想定する。
2・模型の素材と厚み、着色は自由だが必ず内部に空間があること。自らの設計に相応しい素材を考える。
  Ex:スチレンボード、ケント紙、木、金属等
  エスキスやスタディ時はケント紙・スチレンボード等の簡単に加工できるものが望ましい。
3・加えた操作の中で、優勢な操作の名前をサブ・キーワードとして挙げる。
  Ex:切断、曲げ、貫入、捻る、積み重ねる等
4・出来上がる空間や形態にキーワードをつける。
  Ex:悲しい、激しい、可愛らしい、穏やかな、人を寄せ付けない等
5・どのように使用できるか、その機能を提案する。
  Ex:学生のための休憩所、ベンチ、公園内の東屋、フォリー等
※1~5は、一方的に進むものでは必ずしもなく、同時並行に検討されるべきものである。

 

■注意事項
身体の寸法との関係を常に把握しながら、設計を進めること。
※演習の期間内はメジャー(コンベックス)を必携のこと。
※模型には必ず自分の身長の人型を入れること。
※模型には別で作成した点景(イスやテーブルなど)を置かないこと。
※イスやテーブルのような機能をもたせたい場合はチューブの操作で表現すること。

建築デザイン演習2(秋・水3−4・2セメスター)

◎加藤仁美・十亀昭人・伊藤喜彦・野口直人・番場俊宏・彦根明・井上玄・森屋隆洋・森昌樹・伊藤州平

*2年次設計演習授業

建築デザイン3・同演習(春・木3−4・3セメスター)

◎野口直人・杉本洋文・山崎俊裕・小沢朝江・井上玄・白子秀隆・彦根明・山口紗由・明野岳司・山下貴成・森屋隆洋

都市のリビング

 私たちは、豊かな生活をするために都市にちりばめられた機能を、まるで自分の家のように使うことによって生活を成立させている。ある時はレストランで食事をし、図書館で勉強をし、ランドリーで洗濯をし、公園で昼寝をする。時には部屋着のまま、まるで自分の部屋にいるように近所のコンビニへ行くなど、自分の家を拠点としながら都市に私的なテリトリーを広げているのではないだろうか。
 本課題では、自分の居場所と思える都市のリビングを考えてほしい。それはただ単に私的な空間が露出するだけではなく、複数の私的な空間が重なり合うことによって、これまでとは違った地域におけるコミュニティの創造を期待するものである。それは、例えば地域の人との新しい交流を行える場所であったり、友達と集まれる場所、家事の一部を共有しながらコミュニティを醸成する場所であるかもしれない。
 都市のリビングとは、あなたの空間であってあなただけの空間ではない、都市に住まう人のための広場のような場所であり、これまで公民館や集会場などが担ってきた地域の拠点を補いつつ、日常生活の一部として機能する場所の提案を求む。

 

■設計条件
 敷地:神奈川県秦野市
 敷地面積:331㎡
 延床面積:100㎡程度(面積の増減は10%まで認める)
      延床面積は「屋根と柱、梁に囲まれた空間」とするが、

      延べ床面積の内、最低50%は屋内空間として計画すること。
 階数:自由(地階のみは不可)
 構造:自由
 その他:建物だけでなく、敷地内のランドスケープも提案すること
■必要諸室
 ・自由に用途を想定し、その用途が成立するための諸室を満足させること
  (例えばカフェであれば、テーブルと椅子、キッチン、食品庫が必要となる)
 ・トイレ(男性用トイレ、女性用トイレ、だれでもトイレを最低1室ずつ)

部屋とリビングと隣

 郊外の住宅は高度経済成長期に地方から大都市へ流入する人口の受け皿として、同一時期に大量かつ画一的な住宅が供給されました。しかし、近年、人口減少、超高齢化時代、都心回帰の流れもあり、郊外の住宅の魅力は失われ、虫食い状に空き家が発生し、住環境が悪化していくリスクを抱えています。
 また、東日本大震災の経験から、私たちは家族や地域とのコミュニティーの大切さを再認識しました。共働き夫婦の増加やインターネット・SNSの発達により、ライフスタイルが多様化した現在では、従来のnLDKのような形式にとらわれない、柔軟な住まい方が求められています。
 本課題では家族「部屋」とのつながり方、地域「隣」とのつながり方を考慮した住宅を考えてください。「リビング」の価値を再考し、もっと外に開かれた居場所となることを期待しています。それは、共働き家族の子供のケアや高齢者のケアといった家族の機能を補完するものであったり、SOHOのような職住近接で働く場所であったり、コミュニティーカフェのような地域交流の場であるかもしれません。
 既成の概念にとらわれず、自由な発想で、郊外の住宅が活性化するような魅力的な住宅の提案をしてください。
 
■敷地条件
 神奈川県横浜市都筑区
■建築条件
 敷地面積:222㎡
 建ぺい率:40%
 容積率:80%
 用途地域:第一種低層住居専用地域
 最高高さ:10m
 要求面積:120㎡程度
 その他:建物だけでなく敷地内のランドスケープも提案すること
■家族構成
 40代夫婦+子供2人

うちと外をシェアする

 都市ではたくさんの人々や建物が高密度に集まっています。限られた場所と資源を効果的に活用するために、都市の生活では様々な共有=シェアが行われています。
 例えば、職種の異なる人々が部屋を共有して働くシェアオフィス。プリンターなどの機材や会議室のような広いスペースをシェアし、自分でオフィスを構えるよりも低コストで快適な仕事環境が整います。また、使いたい時だけ使えるカーシェアリングやレンタサイクルといったモノをシェアする便利なサービスもあります。住宅においても、子どもの勉強部屋をあえて作らず、子どもはリビングダイニングで宿題をし、親は隣で家事をすることで生活の時間を共有する過ごし方もシェアの一例と言えます。このように、個人で所有していた場所やモノを他者とシェアすることは色々な場面で増えつつあります。
 しかし、シェアすることは良いことばかりではありません。プライバシーが無く落ち着かない、自分のモノじゃないから好き勝手出来ない、共有するためのルールを守らなければならないなど、その代償もあります。つまり、こうしたメリット/デメリットに対して適度にバランスを取ることがシェアする上での重要なポイントになってきます。
 今課題では、シェアすることを通してプライベート(うち)とパブリック(外)を考えながら、4~6世帯の住まいを設計して下さい。住まいの中には、住民同士がシェアする機能及び空間に加え、街とシェアする機能及び空間を含めた建物を提案してください。

 

■設計条件
 敷地住所:東京都渋谷区鉢山町
 敷地面積:342㎡
 建ぺい率:60%(許容205㎡)
 容積率:200%(許容684㎡)
 用途地域:第二種低層住居専用地域
 要求面積:500㎡程度(面積の増減は10%まで可)
 高さ制限:16m未満(基準面はGL±0)
 構造及び階数:自由
■要求諸室
 ・4~6世帯の住居スペース
 (住人の構成や面積配分は自由に設定して良いが、周辺環境を考慮して決定すること)
 ・住人同士がシェアできる機能、空間(面積は自由に設定して良い)
 ・街とシェアする機能、空間(面積は自由に設定して良い)
■その他
 ・周辺環境に配慮した計画とすること。
 ・駐車場は設けなくても良い。

建築デザイン4・同演習(秋・木3−4・4セメスター)

◎渡邉研司・山崎俊裕・河内一泰・白子秀隆・古見演良・山口紗由・山下貴成・納谷新・佐屋香織

スモールリノベーション 街を引き算・足し算する

 デザインするという行為は「整理する」作業から始まる。それは条件を「整える」ことだったり、バラバラな要素を「揃える」ことだったりするが、初期段階ではそれだけでデザインの方向が決まってしまうこともある。整えたり揃えたりするために何かを「削除」しなければならなくなることもあるし、何かを「不可」する必要が発生することもある。
 デザインとは、基本的にこの「引き算」と「足し算」のバランスで成立している。
 この課題は、鎌倉地域をサーベイ(調査)し、そこで発見した問題意識をもとに、これからの「カマクラ」をより魅力的にする一時的(仮設的)な建築提案を求めるものである。ただ、提案するものは、休憩スペース公園や、駅前駐輪場・駐車場施設ではなく、また、建物の大幅な解体や新築といった大規模な都市改良を求めてはいない。
 鎌倉は代表的な観光地としてのイメージが強いが、以下の4つの視点を考慮しながらサーベイを行うこと。
1.中世から続く歴史的な要素がそこかしこに見えがくれしている
2.周囲を取り囲む丘陵地と海辺を繋ぐ道が、場所の多様性を生み出している
3.湘南での生活を希望する新旧世代の住民がプライドを持って生活している
4・民家の間を縫うように走る江ノ電は、鉄道沿線のスペースに種々の可能性を与えている
 街をデザインするときに、そこに見えている現実(リアル)がはっきりしているので、無意識に「カタチ」を作ってしまう。だがデザインには「目的(何のため)」や「対象(誰のため)」といった問題意識が必ずある。この課題ではサーベイやデザインの過程(スタディ)の中で問題意識が見えてきたときに、このデザインは誰のためにあるのかを考えること。それは「街の人(生活)」だったり、「訪問者(観光)」だったり、あるいは「全ての人(現実、日常)」かもしれない。「何となく考えている」ことを「それは何なのか?」とはっきり意識し、街をみらいのカタチにすること。
 街のスキマを発見し、小さなリノベーション(更新)で、アクティビティー(行動)に変化をもたらし、ささやかなランドスケープデザインや小さな建築やファサードの提案で、カマクラを少し変えること。


■敷地条件:鎌倉の地図に明記された地域で各自設定する
■建築条件:建築的・都市的提案であること
      一時的(仮設的)な建築提案であること
      建物の大幅な解体や新築といった大規模な街の改良を求めてはいない
■建築面積:面積は特に規定しない
■施設内容:周辺環境との関わりに配慮した提案であること
      新しいアクティビティーが生まれるために必要な機能を有すること

鎌倉こどもセンター                         たくさんの場所とつながりのかたちを考える

 課題は鎌倉駅前に建つ中高生を対象にした子供のための施設です。様々な活動が行われる「たくさんの場所」をつくり、それらが「交わる」楽しい空間を設計してください。
 「たくさんの場所」とは遊んだり、学んだり、発表したりする様々な活動のための場所です。1人でふらっと行く時もあるし、数人で何かをしに行く時もあるし、たくさんの子供が集まってイベントをしたりする時もあります。それぞれの空間の大きさや小ささ、開き方や閉じ方、賑やかさや静かさなど、活動に応じて場所を作ってください。
 それらが「交わる」事とは、異なる活動が見えたり、時によって一体的に利用されたりする事です。駅前の角地という街の人が行き交う立地をふまえ、子供同士だけでなく施設内部と外部の広場、街とのつながりも考えてください。

 

■敷地条件:神奈川県鎌倉市御成町
      第二種住居地域、準防火地域、建ぺい率60%、容積率200%
■建築条件:延床面積1,500㎡程度、構造自由、階数2層以上
     (平屋不可、地下7m地上20mまで計画可能範囲)
■施設内容:エントランスホール(イベントスペース大300㎡を含む) 500㎡
       図書+学習スペース 300㎡
       カフェ 100㎡
       イベントスペース中(100㎡×2) 200㎡
       イベントスペース小(20㎡×5) 100㎡
       事務室 80㎡
       機械室 80㎡
       倉庫 40㎡
       トイレ 2か所
       階段 2か所
       EV 1か所
       屋外広場(ピロティや屋上も可)
       駐車場、搬入荷捌スペース(2tトラック1台分)
       ※イベントは展示、レクチャー、ライブなど自由に設定してください。

「生活の距離を考える」

 建築の設計行為は、人と人、または人と物との関係をつくることであり、距離を設定することでもある。例えば、あなたがまちのベンチに座るときやカフェで席を選ぶときなどは、他人との距離を考えながらどの席に座るか考えるだろう。2人だけで内緒話をするとき部屋の隅に行った経験があるだろう。見知らぬ2人であっても壁が1枚あれば背中合わせであっても気にならない。お屋敷の門に強い結界を感じたことはないだろうか。物理的な距離は一定であっても、その間にどのような「形、素材」でつくられた「壁、床、天井」のようなモノが介在することで心理的な距離が変化する。
 住まいは、人の最低限のテリトリーを確保しながら外部とつながる拠点である。他者と空間を共有しながら住まう場所では、お互いの距離の取り方が重要なコミュニケーションとなる。
 今回の課題では、このような物理的距離と心理的距離をテーマにしながら住宅を設計してほしい。また、居住者同士の距離だけでなく、生活の様々なシーンを想定しながら周辺環境との距離や周辺住民との距離についても考えても良い。

 

■敷地条件:鎌倉市内の江ノ電線路沿いの架空の敷地
■設計条件:敷地面積:225㎡
 延床面積:100㎡(20%の増減まで認める)
 絶対高さ:12m
 構造:自由とする
 階数:2層以上とする
 居住者:2人~4人のなかで自由に設定すること。ただし、居住者同士は非血縁関係とする。
 ※敷地内のアプローチ・ランドスケープなどを必ず提案する。

*3年次設計演習授業

建築設計論1・同演習(春・月3−4・5セメスター)

◎渡邉研司・佐々木龍郎・手塚由比・古見演良・篠崎弘之

代官山メディアライブラリー                     -たくさんの人が集まる場所としての都市型ライブラリー-

 建築の設計において、public(公共)は欠かせない概念の一つである。社会生活を行う上で無意識に使用している施設全てにpublic(公共)は存在している。 この課題では「これからの図書館」を考えることで、公共の意味を問うものである。図書館の未来像として魅力的なカタチを提案してほしい。


メディアの今 

 現在の本は、文化の根源的メディアとして数百年の歴史を持っている。しかし、この伝統的メディアは、デジタルツールの普及によ りデジタルメディアに急速に取って代わりつつある。現在の本が全てデジタルメディアに代わるとは考え難いが、その関係性は大きく変化していくだ ろう。最近ではデジタルメディアに対して、プリントメディアという言葉が使われるようになり、社会生活における本の位置付けも変わってきている。 本屋も、代官山蔦屋書店(Tサイト)のように、さまざまな機能・役割が付加されたメディアストアへと変わりつつある。公共建築である図書館もまた、 これまでの図書管理を中心としたサービスから、公共施設として「これからのカタチ」を考えなくてはならない岐路にある。 


ヒルサイドテラス建築群について 

 代官山地域を所有していた朝倉家が建築家.槇文彦に依頼し、1969年から1998年まで30年をかけて作られた。 1 期計画が完成した現在、ヒルサイドテラスは旧山手通りに沿って 10 棟+デンマーク大使館で全体が構成されている。これほど良好な「街」とも言 える空間を一人の建築家がデザインしたものは稀有な存在であり、世界中から注目を得ている。各建物には前庭、中庭など小さな広場が備わりそれら が連続して気持ちよいロードサイド空間になっている。広場ではイベントやワークショップなどが頻繁に行われていて、基本は商業の空間なのに街の 文化を作っている。まさに、都市のなかで、公共性をもつ低層な建築空間、街空間と言える。課題でのコンテクストは、代官山地域全体を示すが、ヒ ルサイドテラスの空間をコンテクストと捉えてもいい。

 

■敷地
 東京都渋谷区猿楽町
■敷地条件
 4,470㎡(間口: 85m×奥行き: 50m)
 第2種中高層住居専用地域 建ぺい率60%(角地緩和70%) 容積率300% 準防火地域
■設計条件
 建築面積:3,129㎡以下(敷地面積×70%)
 延べ面積:5,000~6,000㎡(内外かかわらず広場を含む総面積)
 構造形式:木造.S造(鉄板造含む).RC造.ハイブリッド造など
 計画範囲: 階数2層以上(GLより地下7m.地上20mまで計画可能範囲)
 必要諸室:

  ・広場 500~1500㎡(内外とも可)
  ・エントランスホール 適宜
  ・レファレンスコーナー 50㎡(オープンなスペースでよい)
  ・既存の開架形式を発展させた開架書架(メディアストック)10万冊程度 500㎡
  ・多様なタイプの閲覧スペース 合計1000㎡
  ・イベント.レクチャーワークショップ等のレンタルスペース 300㎡×1、 100㎡×3、 30㎡×6
  ・本をつくる工房(準備室含む)  200㎡
  ・ライブラリーショップ 100㎡
  ・カフェ(キッチン含む)  150㎡
  ・レストラン(キッチン.食品庫含む)  250㎡
  ・トイレ 50㎡×2以上
  ・階段×2以上
  ・EV×2以上
  ・管理機能(事務.従業員休憩.トイレ) 150㎡
  ・倉庫150㎡・廊下 適宜
  ・設備機械室 (延べ面積の8%程度 400~480㎡地下で可)
  ・(中型トラック)搬出入、荷捌きスペース(内外とも可)

銀ブラターミナル                         -立体的なパブリックターミナルをつくり、銀座の社交の文化を育む-

■銀座について
 銀座は商業の街です。東京に進出する有名ブランド店は最初に出店する候補地を2つ、銀座と表参道を挙げます。現状その通りに、銀座には有名ブランドが立ち並び、成熟した商業の街「GINZA」として世界的にも有名で海外から多くの観光客が訪れています。その一方で、銀座の街には公共空間や公園は少なく、1970年代から大通りを週末歩行者天国として利用しています。銀座は道路を公共空間、パブリックスペースとして利用してきました。秋葉原や原宿で若者を中心に文化を発信してきた歩行者天国は、今はすでになく、銀座は今も歩行者天国を続けています。世界で最も成熟している都市といわれるニューヨークは、プラザプログラムという制度を導入し、歩行者空間を広げていて、ハイラインと呼ばれる高架の廃線を利用したリニアな都市公園をつくっています。「GINZA」としてさらに成熟していくために、これからの銀座には公共的な場所が必要となってきています。近年開発が行われた大型商業施設の銀座三越も歌舞伎町もGINZA SIXも全て、屋上庭園やテラスを公共空間として開放することで法規上の容積率緩和を受けて大きなヴォリュームを作っています。これからの銀座には都市開発計画としても公共空間は必須です。


■敷地・パブリックターミナルについて
 銀座の道路を公共空間として位置付けると、他の大型商業施設の屋上庭園やテラスの公共空間と立体的につながります。交差点は文字通り道のターミナルです。その交差点の一角地を計画敷地とします。道路から敷地を含めて、立体的なパブリックターミナルとして銀座の街に開く公共的な多層建築を計画してください。この敷地は現状更地です。1966年に芦原義信さんがソニービルを設計し、らせん状にスキップフロアで構成された立体的で、交差点と一体となった都市空間を形成していました。その事例も大いに参考にして、多層建築の縦の動線計画を重要視して計画してください。


■社交の文化、銀ブラについて
 銀座は社交の文化が育まれてきました。ファッションや映画、演劇、伝統芸術、夜の街として、人と人が交流して様々な文化を学び育んで世界にその文化を発信しています。その発信される文化に、ブラブラ散歩しながら気軽に触れることができるのが銀座の特徴であり、「銀ブラ」という言葉があります。今、銀座から発信する文化は何なのか、立体的な銀ブラとはどういうものなのか、銀ブラしながら考えてください。


■敷地
 東京都中央区銀座
■敷地面積
 712㎡:商業地域・防火地域
 容積率:800%+容積緩和+300% 建ぺい率:80%(角地緩和+10%)
■設計条件
 延床面積:6,000㎡前後
 構造形式:自由(鉄骨造、RC造、SRC造、一部木造など)
 階数  :地下1~2層、地上8~10層程度(最低高さ40m、最高高さ60mとする)
 用途  :文化施設(文化・芸術活動のために使用される施設)


 下記を基準にして計画を行うこと。(提案に応じて変更してよい)
 1. 日本を代表する企業の技術・製品を通じて東京の今の銀座の街を知り、学び体験するスペース:

                                          合計2,500㎡
   a.プロダクト展示:500㎡
   b.情報展示:300㎡(書籍、DVD、パネル展示など)
   c.音楽スタジオ:400㎡(300人スタンド収容、仮設ステージ付、ライブ、音楽体験)
   d.映画演劇スタジオ:500㎡(250人席収容、常設ステージ付、映画、演劇体験)
   e.インタラクティブスタジオ:400㎡

    (個室に間仕切ることができるように計画、ゲーム、aibo、スマートフォン、PC、VR体験)
   f.写真スタジオ:400㎡(撮影スタジオ、写真パネル展示、カメラ、ビデオ体験)
 2.通路、階段、テラス、庭園(屋内外)等:1,700㎡
 3.1のインフォメーションスペース(エントランスを兼ねる):300㎡
 4.カフェ:250㎡(厨房含む)
 5.1のショップ:150㎡(倉庫含む)
 6.管理事務スペース:300㎡
 7.便所:300㎡(各階適宜)
 8.機械室:500㎡
 ※直通避難階段として、区画された階段およびEVは1以上計画すること
 ※一般駐車場は敷地外とするが、搬出入サービス動線は確保すること

建築設計論2・同演習(秋・月3−4・6セメスター)

◎杉本洋文・上田至一・長谷川祥久

「集まる楽しさ」                              仮設木造社会集客施設

 私たちの日常の暮らしの中で様々な時間、空間、機会で、多様な人々の単位の集団で集まり、多くの人々と出会い交流している。私たちは、街中にそうした様々な居場所を見出し、多くの人々と一緒に生活や活動をしている。住宅は数人の家族の暮らしの場、カフェは数人の友人と出会う場、映画館は何十人と鑑賞する場、サーカスは何百人と鑑賞する場など、人々の集まり方で様々な空間が存在している。
 この課題では、都市の中に仮設的に作られる社会集客施設を木造建築で提案してもらう。施設の内容は、皆さんが一番感動するプログラムを選んでください。例えば、ボクシング、フットサルなどのスポーツ施設、サーカスや演劇、音楽コンサート、ギャラリーなどの文化施設、バザーや市場などの物販施設、集会施設、子供たちの遊び場など様々なプログラムが考えられる。提案では機能が複合される場合や多目的に使われることも考えられ、様々なことが想定できる。そうした明快なプログラムと場所に対してふさわしい木造建築を提案してください。木造建築は、木材を組み上げる木架構が必要になり、美しい木組みを考える機会となる。
 日本はこれまで10数年に渡り、現代木造建築の推進に力を入れており、多くの建築家が美しい木架構を持った木造建築を各地に提案してきた。そこで、あなたが最も美しく感動できる木の空間を探し出してください。そして、その建築の木の空間がどのような木架構なのかを研究し、他の素材であるスティール、コンクリートとは異なった、接合方法、部材構成があるので、その特徴を捉えて、木架構を詳しく学んでください。提案する仮設建築は、期間を6ヶ月程度と想定する。建築基準法では緩和規定が適用され、通常の建築とは異なった空間提案も可能である。
 提案する場所は、横浜市野毛商店街周辺とする。

 

■敷地条件:横浜市吉田町
■施設内容:50人から200人程度が一緒に集まれるプログラムを提案する
■施設規模:500㎡から1000㎡程度
■構造:木造とする。階数は自由、地下は原則作らない。

「横浜の公共文化施設のあり方を考える」                         -伊勢佐木モールを題材として-

 3年生の最終課題では、劇場を含む文化施設を課題とする。文化施設は、近年大きくその存在意義が変化している。持つべき機能を従来の計画論的に整理するだけでは、現在の文化施設の抱える問題は見えてこない。文化施設には、国や自治体が整備する公共施設と、民間資本により整備されるものとがあるが、そのどちらもが社会的状況や経済情勢、法制度の影響を受けながら、長年にわたって個別に整備されてきた。公共施設としては、「文化芸術振興基本法」が平成13年に制定された。これは、文化・芸術の振興に関する基本的な理念・施策について定めた法律であり、国・地方自治体は、文化芸術活動を行う者の自主性を十分に尊重しながら、文化芸術の振興に関する施策を実施する責務を有するとしている。昨年、平成29年に「文化芸術基本法」をして改定された。また、「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律」が、文化芸術振興基本法の基本理念に基づいて、劇場・音楽堂・文化ホールなどの機能を活性化し、音楽・舞踊・演劇・伝統芸能・演芸の水準の向上と振興を図るために制定され、平成24年に施行された。劇場・音楽堂等の事業、関係団体および国・地方公共団体の役割、基本的施策などについて定めている。しかし、具体的な整備方針や存在意義の考え方は各自治体とその設置者にゆだねられている。一方、民間資本によって整備される劇場は、その基本は利益追求が一義的な目的だと考えられるが、その存在や活動が地域や社会に与える影響を広く長期的視点を持って捉える事で、設置主体の企業イメージの向上や、設置される地域の文化的社会的価値向上が、設置主体にとっても利益となるという視点によって、単なる直接的利益追求に留まらない文化施設が各地で多様に展開されている。
 現在は、少子高齢化、人口減少が日本社会の大きな問題であり、超高齢化社会は医療費、保険料の行政への負担を猛烈な速度で増加させ、いつまでも健康に自分で生活できる人を増やす事が、その最も大切な対策となっている。同時に、個人にとっても一度リタイアした後の人生を如何に健康的に充実させるかが、これまで以上に大切な社会的課題となっている。さらに、子育て世代にとっても、地域コミュニティが希薄になり、子連れで行ける場所、安心して子供を遊ばせる事のできる場所が少なく、子供にとっても放課後いる場所が見付けられない。これらのことから、どの世代にとっても職場や学校と家庭以外の第3の居場所づくりが、身体的、精神的健康の為にも、交通事故以上に多い自殺者を減らす為にも大切な課題となっている。
 他方で、情報端末により、いつでもどこでも新しく情報が手に入り、それを個人が再発信できるようになった。それはほぼ全ての世代に普及し、近年ではその情報を不特定多数の人々が同時に感動や共感、心に残る体験として共有することができ、それが世界的にメディア上で氾濫し驚異的な数の視聴者を獲得している。この事は見方を変えると、人々は誰か他の人と情報や体験を共有する事、共感する事をむしろかなり切実に求めていると想像することができる。今後、求められる文化施設は、この体験を共有する事を、身体的に直接行う為の場所であると考えることもできる。同時に、単発的な芸術鑑賞や文化体験だけではなく、社会的な第3の居場所として、日常的に頻繁に訪れて時間を過ごし、出会い、対話する場所として、または遊んだり、食事したり、マーケットで買い物をしたりする場所としての存在となる事が求められていると考えることもできる。まさに、現代のフォーラム、または広場としての存在である。この事はホール系公共施設だけではなく、多様な文化施設、教育施設等の公共建築物が皆これまでの限られた人、目的の為ではなく、広く、多様な人々の活動の場所、直接的コミュニケーションの場所、継続的、連続的に楽しみ、その時間と空間と体験を共有する場所として、存在意義そのものが問い直されている。そのような視点の元で、どんな大きさの空間が、どんな機能を担保してどれだけの数と種類で用意されるべきか、根本に立ち返って考える機会とする。第1課題で、様々な単位の人の集まる空間を木造によって創り出すことをスタディした。第2課題では、より具体的な使用目的をまずは1つに絞り込み、なんらかの専用目的のための劇場を造ることとする。そして、その専用の目的のために必要な劇場空間と客席に加えて必要な諸室を選択して配置する。そして、その選択された空間が関係付けられる事によって、全体に機能的劇場空間を構成してもらう。その上で、当初想定した専用目的以上に多様な使われ方を生み出せるようになる事を考えてほしい。それが、今後求められる新しく、そして本来そうあるべきだった真に人々の求める文化施設の姿を探ることになると考える。
 この課題では、横浜市中央部の伊勢佐木モールを題材とする。最初にこの地域の特性や文化的背景、現在の地域的魅力、将来計画を把握し、敷地の調査を行う。その中で、地域がより魅力的なものとなり、同時にこれまで伊勢佐木モールが担ってきた存在価値をさらに増幅できる劇場系文化施設となるものを提案するための具体的場所を各自選定する。なぜその場所を選ぶのか、さらに、その場所になぜその専用目的の劇場を計画するのかを明確に説明できるようにする事。課題として要求されている諸室の使い方、機能的必要諸室等を調査、学習する事。その敷地特性の把握と施設の持つべき具体的機能を選定するところから課題が始まると考えてほしい。

 

■建築概要
構造:鉄筋コンクリート造または鉄骨造、一部木造も可
規模:7000㎡程度
階数:適宜
必要諸室
 01_ホール機能(最大3000㎡程度)
  -大ホール(500席程度)
  -小ホール(100~150席程度)
  -大小ホール用ホワイエ
  -バックヤード(楽屋、倉庫、搬入口、荷解きスペース、楽屋ラウンジ、技術者控室等)
 02_展示機能(300㎡)
  -展示スペース(4m程度の有効天井高さ)
  -展示準備室・収納庫
 03_創造系支援系機能(1000㎡)
  -大中小のスタジオ最低各1室
  -ワークショップスペース
  -製作室
  -和室
 04_交流機能(1000㎡程度)
  -オープンロビー(長時間滞在でき、打合せに使える、カフェを併設し飲食可能なもの)
  -レストラン
  -各種ショップ、商業施設
  -図書やCD、DVDを閲覧でき、ネットワーク端末を利用できる場所
  -託児室など
  -ライブイベント、バザー等が開催可能なオープンロビーに連続する広場空間
 05_管理機能
  -楽屋事務室、管理事務室(20~30人程度の執務スペース)、会議室
 06_その他
  -各施設に必要なトイレ、倉庫、廊下など
  -機械室10%
  -緑地帯(地盤レベルでなくても良い)
  -子供の遊び場
  -搬入車、関係車両用駐車場適宜
 ※上記課題を実現するために必要な機能を各自考え提案して良い